横のバランスが大事
高齢者が安定した歩行をするにはバランスが大事です。今回は横方向のバランスを保つのに股関節の筋力が大事だよ、というお話です。
Contribution of hip abductor-adductor muscles on static and dynamic balance of community-dwelling older adults
Aging Clin Exp Res. 2019 May;31(5):621-627
ということで町(もっといい言葉ないかな)で生活するお年寄りの股関節の外側の筋力が片足立ちや次足歩行(平均台の上の歩行とか)と関係していて、狭い足場でバランスを保つのには内側の筋力と関係していますよというお話です。高齢者は前後のバランスよりも横方向のバランスが弱いので、転倒予防には横方向のバランス評価が大事。運動時のバランスは股関節の外側、静止した姿勢のバランスは内側の筋力が重要で、まあ股関節の筋力が大事ですねというところでしょうか。
60-80歳の対象者に片足立ちと継足歩行をしてもらって、その後にさまざまな条件で股関節の筋力と筋電図を測っています。そうすると内外転の最大筋力ではなく最大トルクが関係していましたと。若い人ではあまり足の力を使わないけど歳をとるとバランスを取るために足の力が必要になっていくようだという文献もあり、じゃあ足以外はどうなっているんだということになるんですけどその辺は触れられておりません。そしてどうやら70歳以上だとさらに内側の筋力がたくさん必要になるようです。老化の過程で体に変化があるのではないかと。・・・まあ答えはいくつか知ってるけど(ボソ)
違いが分かる奴のBerg Balance Scale
高齢者や後遺症のある方のバランス能力をはかるために使用されている指標の一つにBerg Balance Scale(バーグバランススケール、BBS)があります。0〜56点で評価されるのですが14項目ありそれぞれ0〜4点の点数をつけて合計します。
しかし26点と29点だとどれくらいの差があるのでしょうか?
そこに着目をしたのがコレ
HOW MUCH CHANGE IS TRUE CHANGE? THE MINIMUM DETECTABLE CHANGE OF THE BERG BALANCE SCALE IN ELDERLY PEOPLE
J Rehabil Med 2009;41:343-346
です。
たくさんの人が測定したBBSスコアの値からこれだけスコアが動くと差があるよというのを経時的に取ってみましたというお話です。途中で調子を落としたり怪我をしたり病気になった人を除外し、ひたすら測定をしました・・・そしてMDC95という測定誤差の基準で人によってBBSスコアの点数の差がどの程度以上違うと差があるのかというものを最大95%程度まで計算しました。
結果は・・・
○45〜56点・・・4点以上
○35〜44点・・・5点以上
○25〜34点・・・7点以上
○0〜24点・・・5点以上
これだけの差があれば自信を持って違うと判定できそうということでした。
日常生活での背骨の動き
Gait&Posture 2019:67:277-283より
Spinal segment do not move togather predictably during daily activities
要約の要約(できてるかな?)
背景:従来より胸椎、腰椎、または脊椎全体を硬いセグメントと見なすことが一般的でした。脊椎のマルチセグメント分析の要件をよりよく理解することで、将来の研究の計画を導き、臨床的に関連する情報を見逃さないようにすることができます。
研究の質問:この研究は、隣接する脊椎セグメントの動きの相関関係を評価し、それによって健康な人と腰痛(LBP)の参加者の両方でセグメント間の自由度を評価することを目的としています。
方法:3Dモーションキャプチャシステムで腰痛のある20人の健康な参加者と20人の参加者の胸椎と腰椎の上部と下部の動きを追跡しました。実行されたタスクには、ウォーキング、座位から立位、持ち上げが含まれ、3回繰り返されました。脊椎セグメントごとに3D角度運動学が計算されました。セグメント間の自由度は、運動学の時系列の相互相関(Rxy)分析と、隣接する脊椎セグメントの運動範囲(RROM)の相関によって評価されました。
結果:
上/下腰部
すべてのタスクと解剖学的平面でLBPグループに弱い相関
健康な人では歩行と持ち上げ中に中程度の相関
下部胸椎/上部腰椎
前頭面での持ち上げと座位、および矢状面での歩行で、両方のグループで弱い相関関係
上部/下部胸部
LBPグループの患者の矢状面で座位から立位の間に中程度の相関がありましたが、健康なグループ弱い相関
リフティング中には逆の結果が観察された。
RROM値の大部分は弱い相関
重要性:結果は、脊椎の動きの特性を完全に理解するためには、脊椎のマルチセグメント分析が必要であることを示唆しています。健康なデータに基づいて冗長性が発生する場所を事前に確立することはできないため、病理学的コホートを使用した研究を計画する際には、特別な考慮が必要です。
センサーを細かくつけてみると背骨は一体となって塊で動くわけではなく、また日常動作の種類によっても動き方が違いますよ、というお話でした。
歩行中のバランス
Gait&Posture 2013:18;134-142から。
Head and trunk stabilization strategies during foward and backward walking in healthy adults
要約の要約(できているのか?)
目的:健康な成人がさまざまな条件下(目を開いた状態と閉じた状態、硬い表面と柔らかい表面)で前後に歩行した際に頭と体幹の平衡をどうやって保っているかを調べた。
方法:9つのマーカーを配置し、歩行中の頭部〜骨盤の間でセグメントに分け、その運動を記録した。データは、光学TV画像プロセッサ(ELITEシステム)を使用して取得および分析された。各運動について、歩行速度、絶対角度分散、およびロール軸とピッチ軸の周りの6つのセグメントの固定指数(AI)を計算して、頭と体幹の平衡を評価した。歩行条件間の違いを描写するために、分散の3方向反復測定分析も行なった。
結果:歩行速度が移動タスク(PB / 0.05)の影響を受け、自然条件(硬い表面を前方に歩く、目を開いた状態)では1.109 / 0.21 msであったが特殊な歩行条件(フォームサポート上を後方に歩く、目を閉じている)では0.799 / 0.15 msとなった。一般に、後方に歩くと、脊椎セグメントの角度分散が減少したが、頭と骨盤の絶対角度分散は、どの要因でも有意に変化しなかった(P / 0.05)。
左右の傾きのAIは、頭部と骨盤がスペースで高い正の値で良好に安定していることを示し、被験者が柔らかい表面を後方に歩いているときにこの空間安定性が向上した。対照的に、脊椎セグメント(胸椎、腰椎)はそれぞれ局所で固まって安定しており、被験者が柔らかい表面を後方に歩いたときにもその傾向が増加した。したがって、移動の難易度を上げると、脊椎セグメントの全体が一体化する固定機能が誘発され、特に柔らかい表面を後方に歩くときに、頭と骨盤の安定化が高まった。
(3行でまとめると)条件が良いと頭、背骨、骨盤全部が大きくゆらゆらしながら頭と骨盤の位置があまりぶれないようにバランスをとって、条件が悪くなると頭と骨盤だけゆらゆら、背骨は一体化して頭を揺らし歩行速度が遅くなる。歩行速度を揃えるとどうだったのかな・・・。
日本語が難しいけど多分こんな感じ・・・。
細かく見ていくと・・・
歩行条件(想定される状況)
硬い地面と発泡ゴム → 安定した地面(カチカチ)と不安定な地面(ふわふわ)
目を閉じる → 頭の位置の情報・地面の情報がなくなる
後ろ向きに歩く → 路面の状況が予測できない
○結果
歩行速度
開眼>閉眼
前向き>後ろ向き
悪条件が重なった順に遅くなった
開眼で前向き硬い地面>・・・・・>閉眼で後ろ向き発泡ゴム
脊椎の(角)振動運動
横方向の振動
後ろ向きに歩くと振幅減少
硬い地面後ろ向き(最小)<・・・<閉眼前向き発泡ゴム(最大)
頭と骨盤の位置関係・・・常にほぼ一定
体幹(胸〜上位腰椎)・・・歩行方向以外の条件によって変化
閉眼>開眼、発泡ゴム>硬い地面・・・条件が悪いと振動が増える
体幹(下位腰椎)・・・前向き>後ろ向き、発泡ゴム>硬い地面
前後方向の振動
頭部 → 開眼>閉眼
下位胸椎 → 後ろ向き>前向き、ふわふわ>カチカチ
分節の安定性
横方向・・・後ろ向きに動くと分節の一体化が進む
頭と骨盤の位置関係はほぼ一定
胸椎は後ろ向きに歩くと下の分節と一体化して動く傾向にある
前後方向
後ろ向き、発泡ゴムで分節の一体化が進む
まとめ
後ろ向きに歩くと分節の動き、振動共に減少
発泡ゴム(ふわふわ)で胸椎〜上位腰椎まで分節一体化、振動は増加
考察
許容範囲の不安定さ・・・背骨の分節が比較的自由、胸椎〜腰椎セグメントで+と-の角度をとって平均かされるから頭に受ける振動はそんなに?
すごく不安定・・・背骨の分節運動は減り全体の方向が揃うから角度が相殺されなくて頭の振動運動が増える、微調整?
歩行速度が変わっちゃったからこの辺はしっかり比較できないよね、と。条件が悪くなるとそろりそろりしちゃうけど頭がフラフラ。
ちっちゃい子供や脊椎の病気だと分節の大きな運動は難しいので頭と骨盤の間で傾きが相殺できず頭が大きく動くのでバランスが悪くなる。
(ということは分節運動の方がダイナミックに動ける?)
歩行時の背骨の動き
Clinical Biomechanics 1999;14:384-388より
Segmental movements of the spine during treadmill walking with normal speed
要約っぽい
目的:
本研究の目的は、通常のトレッドミル歩行中の脊椎の分節運動パターンを調査することです。
10人の健康な被験者(5人の男性と5人の女性)のトレッドミル歩行中の脊椎の動きを、光電子測定システムを使用して調査しました。
方法:
脊椎をC7〜S2の範囲で7つのセグメントに分割しました。被験者は通常の速度で歩きました。すべてのデータは、歩行サイクルのパーセントに正規化されました。脊椎分節運動の正常なパターンは、矢状面(横から)と前頭面(前から)で見られました。
結果:
脊椎の振る舞いは、小さなセグメント間の動きが重なった硬い要素の動きとして説明できます。これらの小さな分節間の動きは、矢状面と冠状面の両方で見られました。
結論:
小さなセグメント間の動きは、歩行中のエネルギー消費の削減と平衡の維持に重要な役割を果たす可能性があります。
脊椎に影響を与える障害があると、歩行中の脊椎の動きのパターンが変化し、全体的な歩行パターンが変化するはずです。したがって、治療とリハビリテーションは、その性質に関係なく、脊椎の機能不全の影響を捨てるべきではありません。
背骨の動きは歩行パターンに影響を与えますよ、というそんな論文です。それぞれの分節は周期的な振動を行なっているようです。図とかを見ると分かりやすいですがそれでもややこしさは拭えません。
これを基盤にして後の論文が展開される事になります。
脳卒中後の歩行中に起こる脊椎分節運動の変化
Journal of Human Kinetics volume 16, 2006, 39-56より
Spinal Segmental Movement Changes during Treadmill Gait after Stroke
要約?
背景:
歩行障害に関するほとんどの研究は、下肢に焦点を合わせています。 しかし、歩行は背骨を含む複雑な全身運動です。本論文の目的は、軽度の脳卒中患者のトレッドミルでの歩行中の脊椎の分節運動を研究することでした。
方法:
光電子システムを使用して、15人の片麻痺患者(左側7人、右側8人)のトレッドミル歩行中の脊椎の動きをC7からS2まで7つのセグメントに分割して分析し、調査しました。 被験者はトレッドミル上を自分なりに普通の速度で歩きました。すべてのデータは歩行サイクルごとに正規化し、補正をおこないました。脊椎セグメントの動きのパターンは、矢状面(横から)と前頭面(前から)の両方で分析し、計算されました。
結果:
3つの異なるサブグループが見つかりました。最初のグループは矢状面の歩行サイクルごとに1つの完全な振動サイクルのみで、2番目のグループは位相がシフトした2つの振動サイクルを持ち、3番目のグループは2つの異なる振動を持ちますが、時間と振幅。振動の1つは別の振動よりもはるかに小さくなります。前額面では、第1グループと第2グループでは脊椎が麻痺側に曲がっていましたが、第3グループでは脊椎が硬く、非麻痺側にわずかに曲がっていました。 脳卒中により軽度の歩行障害のある患者では、脊髄運動が 健康な被験者と比較して、パターンはかなり変化しています。 これは、歩行の生体力学的効率を損なう可能性があります。
脳卒中後の歩行様式は自立歩行が達成されても通常の動きと異なり変化していましたという論文です。面白いことに歩行のタイプが大きく3パターンに分かれるものの、全て脊椎のシフトを伴うということです。
nの少ないサブグループでの解析というところに注意が必要そうです。
ちょっと詳しくみてみましょう。
結果を見てみると・・・
「3つのサブグループ全てで(これがメインアウトカムでしょう)、脊椎セグメントの一番上と一番下の動きに一定の方向性がなかった。歩行中に脊椎のわずかな後傾が認められていた。静止立位をとる間、全員の腰と肩のラインは平行でなかったが歩行を始めると平行を保った。歩行を始めると麻痺のない肩を常に前に出し、その範囲で前後に回旋していた。」
「通常でない動作は体幹の持つ歩行中のエネルギー節約機構を損なう可能性がある」
ということで後ろ重心で、麻痺のない側を前に突き出しながら麻痺のある側を引きずる形の歩行をしていた、細かく見てみると3つくらいのパターンがありそうだ、メカニズムが不明な上に数が少ないのでこれが全てかよく分からない、過去の報告と照らし合わせるとエネルギー節約機構を損なうことで歩行にマイナスの影響を与えているのではないかということですね。
残念なことに被験者の情報が詳しくなく、麻痺の程度が分からないというオチがあります。でもみんな杖などを使わず独歩であることを考えるとほとんどがBrunnstrome Stage 5-6くらいの軽度麻痺と考えても良いのではないでしょうか。それ以下で独歩は割と特殊な事例が多いみたいです。
脳卒中のリハビリテーションの機能予後を予測するツール
Stroke. 2019;50:3314-3322. DOI: 10.1161/STROKEAHA.119.025696.
Prediction Tools for Stroke Rehabilitation
勝手に要約の要約(元がありません汗)
目的:
入院早期に急性期病院を退院するまでに達成される機能予後を予測することでリハビリ病院への公平なアクセスを簡便に達成できるツールがないか比較検討する
方法:
自立度、上肢の機能、歩行能力、嚥下機能などを評価した論文について横断的なレビューを行った。(採用基準等は言及なし)
結果:
外部で検証されたツールは3つしかなく、そのうちPREP2については正確性に言及がされている。しかしこれも信頼できるガイドラインに準拠されていない。
結論:
結局良く分からないのでもうちょっと研究デザインをしっかりしてやり直しましょう。
NIHSS、Barthel Index、 Functional Independence Measure、Frenchay Activities Index、Fugel Myer、Functional Ambulation Categories、Motor Assessment Scaleなどを含むお馴染みの方法の組み合わせが多く使われていました。
採用基準に言及されていませんでしたが、基準に該当しそうなものがなかったのでこれは仕方がないでしょうね。要約がなかったのもあまり中身がなかったからだと思われます。とりあえず今のところ何も使えるものがないけど研究デザインを見直せばPREP2あたりは使えるかもしれないね、というところでしょうか。